【注】このお話のスザクは、『黒スザク』です。
いつもの『理屈屋』だけど、他人に対する気遣いを忘れない、
そんな『白スザク』をご希望の方は、他の記事をご覧になる
ことをお勧めします。
『生きる理由』が欲しかったのは、死にたくなかったから。
自分勝手な理由で人を殺した『オレ』は、死ななければ
いけないけど、それでも、やっぱり、生きていたかったから。
『みんな』のために『正義』のために『力』を使えば
『生きていていい』と言ってもらえるような気がしたんだ。
だから、『ぼく』には、明確な『悪』が必要だったんだ・・・!
それが、『矛盾』の始まり。
いつもの『理屈屋』だけど、他人に対する気遣いを忘れない、
そんな『白スザク』をご希望の方は、他の記事をご覧になる
ことをお勧めします。
『生きる理由』が欲しかったのは、死にたくなかったから。
自分勝手な理由で人を殺した『オレ』は、死ななければ
いけないけど、それでも、やっぱり、生きていたかったから。
『みんな』のために『正義』のために『力』を使えば
『生きていていい』と言ってもらえるような気がしたんだ。
だから、『ぼく』には、明確な『悪』が必要だったんだ・・・!
それが、『矛盾』の始まり。
----------------------------------------------------------------
「・・・殺された?」
そう返したルルーシュの顔は、初めて真実を知ったような表情で。
見開かれたアメジストに、ぼくは、あの日のぼくの解釈が、全て間違っていたことを知った。
それでも、ぼくは、話すことを止めなかった。
「そう・・・ぼくが殺したんだ」
「何故・・・?」
それが、今まで、黙ってきた自分を詫びるつもりで言ったことなのかは、分からない。
でも、そこは、正に懺悔室のような場所だった。
この闇の深さを君に -Seen.15-
異国の神さまの前で、懺悔も何もないと思うけど、祈るべき神を持たないぼくには、ちょうどいいのかもしれない。
かつて、この国が『日本』と呼ばれていたころ、亡くなったご先祖さまが、仏様として、今生きているぼくたちを見守っていてくれる、という信仰があった。
実家の社に奉られている神さまは、そういう神さまではなかったけれど、父親を殺めたぼくに、救いの神は存在しない。 ならば、ぼくの絶対者は、ぼくが、罪を犯してまで守りたかった存在に他ならないのだろう。
今こそ、ルルーシュに拒絶され、地獄に墜ちるがいい!
ぼくは、そんなやけっぱちな思いで、ルルーシュの問いに答えた。
「父さんが・・・ブリタニアと戦争するのを、やめてくれなかったから・・・あの日、ナナリーがさらわれた雨の日・・・父さんが言ったんだ。ブリタニアと戦争をするって・・・」
ルルーシュは、しばらくの間、何も言わなかった。
拒絶されると思ったのに。
ぼくは、不思議と、静かな気持ちで、ルルーシュを見ていた。
額に指を持っていく動作。
考え事をするときの、ルルーシュのクセだった。
おそらく、彼の頭の中では、ぼくが言った言葉の意味が、幾通りにも考えられているのだろう。
そして、もっとも可能性が高いもの、それが、彼の口から漏れる。
「・・・ナナリーのため、か?」
ぼくは、あまりに予想通りのセリフに、軽い自嘲すら浮かべた。
可笑しいな、ぼくは、キミほどナナリーのことを思ってはいない。
ぼくは、ルルーシュの間違いを正すべく、口を開いた。
「違うよ・・・ルルーシュ。ぼくは、ナナリーのために、父さんを殺したんじゃない。キミの信頼を裏切らないために、ナナリーを助けられなかったら、キミの頼みをきけなかったことになるから・・・だから、父さんを刺したんだ」
そう、ぼくは、いつだって、キミのことばかり考えていた。
それなのに、キミは、ナナリーのことばかり考えている。
永遠に、捕まらない『鬼ごっこ』。
「同じことだろう・・・?」
「違う!」
ルルーシュが言った言葉を、ぼくは、全力で否定していた。
拒絶されない、と知れば、すぐに、手をのばしたくなる。
だから・・・!
ぼくは、ルルーシュの頬に手を添えた。
その手は、不思議と払いのけられることもなく、ぼくは、ルルーシュの耳の形をなぞる。
神経が集まるそこは、 ルルーシュの反応を誘い、彼から、冷静な考えを奪っていくのだろう。
あぁ、この期に及んでも、まだ、ぼくは、ルルーシュを解放することが出来ないのか!
ぼくは、自分の耳に気を取られているルルーシュに、初めは囁くように、だんだんと声を大きくして、こう言った。
「ぼくは・・・ナナリーを喪って、絶望するキミの姿を、見たくなかっただけなんだ・・・でも、ぼくは、そのために『罪』を犯した。赦されることのない罪を・・・だから、みんなを納得させるための理由が、欲しかった。・・・『親殺し』のぼくが、生きるための理由が・・・!」
桐原さんの言葉が、ぼくの中で響いていた。
あの人の言葉は、難しくて、そのときのぼくには、全部の意味を理解できたわけじゃなかったけど。
「自ら命を断てない、自分勝手な理由でしか、力を使えないぼくは、生きている意味なんかないんだ!」
ぼくは、知らず、ぼくの考えを口にしていた。
多分、そういう意味だったんだ、桐原さんの言葉は。
でも、ぼくは、死にたくなかった。
未練がない、なんて、ウソだ。
そう言えば、周りの人たちは、ぼくの潔さに心動かされ、生きていてもいい、と言ってくれるだろう。
鞘を失った剣を、抜き身のまま持っていても、その刃が、正しいことのために使われるのなら、誰もぼくを責めはしないだろう。
でも、本当は・・・ぼくは!
「・・・そうか。それが、オマエの行動を規制し、矛盾だらけの言動をさせていたんだな・・・」
ルルーシュは、彼なりに、ぼくが今までしてきたことを、理由付けることが出来たらしい。
でも、多分、それは合っているようで、合ってはいないのだろう。
なぜだか分からないけど、そんな気がした。
ともかく、どういう理由付けをしてくれたのかは分からないけど、これ以上の問答は、不要な気がした。
ぼくは、ぼくの望みを聞き、叶えようとするルルーシュに、用はないし、そんなルルーシュに、ぼくの願いを聴いてもらっても、意味がない。
ぼくの望みは・・・!
ぼくは、ルルーシュの耳から手を離し、彼の前から立ち去ろうとした。
これ以上、ここにいたら、また、彼を求めてしまう。
そしたら、また、同じことの繰り返しだ。
ぼくは、ルルーシュに背を向けると、制服を正し、扉の方へ向かって歩き始めた。
すると、不意に、彼がぼくの名を呼んだ。
「スザク」
「何?」
振り返ると、ルルーシュは、祭壇に立ち、右手をまっすぐ横へ差し出した。
今まで見せていた、高校生のルルーシュではなく、気品のある態度。
冷たい表情と、迷いを許さない瞳。
これは・・・。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
ルルーシュが、『絶対者』の声で言った。
「汝が剣、我が為に、汝が盾、我が護るべきものの為に、我欲を捨て、己が主君である我の為に生き、我に尽くさんことを―――」
ぼくは、何も言えずに、ルルーシュの言葉を聴いていた。
淀みない、命令しなれた声。
身に付けているものは、制服のシャツとスラックスのみなのに、纏う高貴さは、生来のものか。
「誓え!」
礼拝堂に、凛とした声が響き渡った。
「どうして・・・」
どうして、今ごろになって!
ぼくは、あの時欲しかった言葉を、今頃になってくれたルルーシュに、憤りを隠せなかった。
そう。
ぼくが、生きている理由を見つけられなかったとき。
父さんという肩書きを持った、ぼくの支配者であり、ルルーシュやナナリーを脅かす悪を殺したとき。
そのときに、その言葉が欲しかった!
ぼくが、怒りのあまり、声を出せないでいると、ルルーシュは、壮絶な笑みを浮かべ、こう言った。
「スザク・・・それが、オマエの望みだな?」
ぼくは、首を横に振るだけで、精一杯だった。
ルルーシュは、口元から笑みを消すと、こう叫んだ。
「拒否は、認めない!」
あぁ、ぼくが好きなルルーシュだ。
誰よりも、高慢でワガママで、自分とナナリー以外の気持ちなんか、どうでもよくて、自分が一番正しいと思っている皇子サマ。
キミの姿を、あの仮面の男に見た。
ゼロの手を拒んだとき、キミを拒んだような気がした。
可笑しいだろう?
最も憎むべき『敵』と、最も愛するキミが、同じ人に見えるなんて。
でも、ぼくは、もう、ここから動けない。
キミが、差し出す手を、拒むことなんか、出来はしない。
ルルーシュは、ゆっくりとこちらへ歩いて来ると、ぼくの目の前で、立ち止まった。
長くて綺麗な指が、ぼくの頬に触れた。
ルルーシュの顔が霞んで、よく見えない。
「こんなところで泣くな・・・恥ずかしいやつめ」
そう言われて、ぼくは、初めて自分が涙を流していることに気付いた。
「ぼくだって・・・泣きたくて・・・泣いてるわけじゃ・・・っ」
嗚咽が邪魔をして上手く言えなかった言葉を、ルルーシュは、首を横に振ることで否定した。
そして。
「だが、そういうオマエの方が、分かりやすくて好きだ」
「ルルーシュ・・・?」
ぼくは、今ほど、自分の耳を疑ったことはなかった。
ルルーシュが、誰を好き、だって?
ぼくが動けないでいると、ルルーシュは、ぼくの涙を拭い、その相好を崩した。
「いい加減、自分を許してやれ・・・オレの命令を実行するには、あの時のオマエには、ああするより他になかった・・・目の見えない・・・歩くことも出来ないナナリーを助けるには、『敵』を排除するより他になかった・・・違うか?」
ルルーシュは、ぼくに頼んだことを『命令』に置き換えることで、ぼくの『罪』を、自らに背負い込もうとしているように思えた。
それは、優しくも哀しい『慰め』だった。
だけど、ルルーシュが肩代わりしようとしているのは、物を壊したとか、誰かにケガをさせたとか、そんなレベルの問題じゃない。
「でも、ぼくは、そのために父さんを・・・」
人殺し、なんだ。
ルルーシュは、真っ直ぐにぼくを見つめると、驚くべきことを言った。
「オレが、オマエの立場でも、同じことをした」
「・・・ルルーシュ?」
ぼくが、信じられない、という気持ちで、ルルーシュを見ると、彼の口元から、笑みが消える。
「ナナリーを守るためなら、悪魔にだって魂を売るさ・・・それが、オレのやり方だ。そして、オレは、信頼出来ないヤツに、ナナリーを触らせたりはしない」
見つめ返した瞳には、一遍の曇りもなく、逆にそれが、ぼくの背筋を寒くした。
それが、ルルーシュの『覚悟』のような気がして、ぼくは、彼の前で、膝を折るしかなかった。
そして、ルルーシュが、ぼくに『誓いの言葉』を求める。
「オレのために、力を使うか?」
ぼくは、ひざまずいたまま、こう言った。
「イエス、ユア・ハイネス」
―――殿下の、仰せのままに。
Seen.16へ
「・・・殺された?」
そう返したルルーシュの顔は、初めて真実を知ったような表情で。
見開かれたアメジストに、ぼくは、あの日のぼくの解釈が、全て間違っていたことを知った。
それでも、ぼくは、話すことを止めなかった。
「そう・・・ぼくが殺したんだ」
「何故・・・?」
それが、今まで、黙ってきた自分を詫びるつもりで言ったことなのかは、分からない。
でも、そこは、正に懺悔室のような場所だった。
この闇の深さを君に -Seen.15-
異国の神さまの前で、懺悔も何もないと思うけど、祈るべき神を持たないぼくには、ちょうどいいのかもしれない。
かつて、この国が『日本』と呼ばれていたころ、亡くなったご先祖さまが、仏様として、今生きているぼくたちを見守っていてくれる、という信仰があった。
実家の社に奉られている神さまは、そういう神さまではなかったけれど、父親を殺めたぼくに、救いの神は存在しない。 ならば、ぼくの絶対者は、ぼくが、罪を犯してまで守りたかった存在に他ならないのだろう。
今こそ、ルルーシュに拒絶され、地獄に墜ちるがいい!
ぼくは、そんなやけっぱちな思いで、ルルーシュの問いに答えた。
「父さんが・・・ブリタニアと戦争するのを、やめてくれなかったから・・・あの日、ナナリーがさらわれた雨の日・・・父さんが言ったんだ。ブリタニアと戦争をするって・・・」
ルルーシュは、しばらくの間、何も言わなかった。
拒絶されると思ったのに。
ぼくは、不思議と、静かな気持ちで、ルルーシュを見ていた。
額に指を持っていく動作。
考え事をするときの、ルルーシュのクセだった。
おそらく、彼の頭の中では、ぼくが言った言葉の意味が、幾通りにも考えられているのだろう。
そして、もっとも可能性が高いもの、それが、彼の口から漏れる。
「・・・ナナリーのため、か?」
ぼくは、あまりに予想通りのセリフに、軽い自嘲すら浮かべた。
可笑しいな、ぼくは、キミほどナナリーのことを思ってはいない。
ぼくは、ルルーシュの間違いを正すべく、口を開いた。
「違うよ・・・ルルーシュ。ぼくは、ナナリーのために、父さんを殺したんじゃない。キミの信頼を裏切らないために、ナナリーを助けられなかったら、キミの頼みをきけなかったことになるから・・・だから、父さんを刺したんだ」
そう、ぼくは、いつだって、キミのことばかり考えていた。
それなのに、キミは、ナナリーのことばかり考えている。
永遠に、捕まらない『鬼ごっこ』。
「同じことだろう・・・?」
「違う!」
ルルーシュが言った言葉を、ぼくは、全力で否定していた。
拒絶されない、と知れば、すぐに、手をのばしたくなる。
だから・・・!
ぼくは、ルルーシュの頬に手を添えた。
その手は、不思議と払いのけられることもなく、ぼくは、ルルーシュの耳の形をなぞる。
神経が集まるそこは、 ルルーシュの反応を誘い、彼から、冷静な考えを奪っていくのだろう。
あぁ、この期に及んでも、まだ、ぼくは、ルルーシュを解放することが出来ないのか!
ぼくは、自分の耳に気を取られているルルーシュに、初めは囁くように、だんだんと声を大きくして、こう言った。
「ぼくは・・・ナナリーを喪って、絶望するキミの姿を、見たくなかっただけなんだ・・・でも、ぼくは、そのために『罪』を犯した。赦されることのない罪を・・・だから、みんなを納得させるための理由が、欲しかった。・・・『親殺し』のぼくが、生きるための理由が・・・!」
桐原さんの言葉が、ぼくの中で響いていた。
あの人の言葉は、難しくて、そのときのぼくには、全部の意味を理解できたわけじゃなかったけど。
「自ら命を断てない、自分勝手な理由でしか、力を使えないぼくは、生きている意味なんかないんだ!」
ぼくは、知らず、ぼくの考えを口にしていた。
多分、そういう意味だったんだ、桐原さんの言葉は。
でも、ぼくは、死にたくなかった。
未練がない、なんて、ウソだ。
そう言えば、周りの人たちは、ぼくの潔さに心動かされ、生きていてもいい、と言ってくれるだろう。
鞘を失った剣を、抜き身のまま持っていても、その刃が、正しいことのために使われるのなら、誰もぼくを責めはしないだろう。
でも、本当は・・・ぼくは!
「・・・そうか。それが、オマエの行動を規制し、矛盾だらけの言動をさせていたんだな・・・」
ルルーシュは、彼なりに、ぼくが今までしてきたことを、理由付けることが出来たらしい。
でも、多分、それは合っているようで、合ってはいないのだろう。
なぜだか分からないけど、そんな気がした。
ともかく、どういう理由付けをしてくれたのかは分からないけど、これ以上の問答は、不要な気がした。
ぼくは、ぼくの望みを聞き、叶えようとするルルーシュに、用はないし、そんなルルーシュに、ぼくの願いを聴いてもらっても、意味がない。
ぼくの望みは・・・!
ぼくは、ルルーシュの耳から手を離し、彼の前から立ち去ろうとした。
これ以上、ここにいたら、また、彼を求めてしまう。
そしたら、また、同じことの繰り返しだ。
ぼくは、ルルーシュに背を向けると、制服を正し、扉の方へ向かって歩き始めた。
すると、不意に、彼がぼくの名を呼んだ。
「スザク」
「何?」
振り返ると、ルルーシュは、祭壇に立ち、右手をまっすぐ横へ差し出した。
今まで見せていた、高校生のルルーシュではなく、気品のある態度。
冷たい表情と、迷いを許さない瞳。
これは・・・。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
ルルーシュが、『絶対者』の声で言った。
「汝が剣、我が為に、汝が盾、我が護るべきものの為に、我欲を捨て、己が主君である我の為に生き、我に尽くさんことを―――」
ぼくは、何も言えずに、ルルーシュの言葉を聴いていた。
淀みない、命令しなれた声。
身に付けているものは、制服のシャツとスラックスのみなのに、纏う高貴さは、生来のものか。
「誓え!」
礼拝堂に、凛とした声が響き渡った。
「どうして・・・」
どうして、今ごろになって!
ぼくは、あの時欲しかった言葉を、今頃になってくれたルルーシュに、憤りを隠せなかった。
そう。
ぼくが、生きている理由を見つけられなかったとき。
父さんという肩書きを持った、ぼくの支配者であり、ルルーシュやナナリーを脅かす悪を殺したとき。
そのときに、その言葉が欲しかった!
ぼくが、怒りのあまり、声を出せないでいると、ルルーシュは、壮絶な笑みを浮かべ、こう言った。
「スザク・・・それが、オマエの望みだな?」
ぼくは、首を横に振るだけで、精一杯だった。
ルルーシュは、口元から笑みを消すと、こう叫んだ。
「拒否は、認めない!」
あぁ、ぼくが好きなルルーシュだ。
誰よりも、高慢でワガママで、自分とナナリー以外の気持ちなんか、どうでもよくて、自分が一番正しいと思っている皇子サマ。
キミの姿を、あの仮面の男に見た。
ゼロの手を拒んだとき、キミを拒んだような気がした。
可笑しいだろう?
最も憎むべき『敵』と、最も愛するキミが、同じ人に見えるなんて。
でも、ぼくは、もう、ここから動けない。
キミが、差し出す手を、拒むことなんか、出来はしない。
ルルーシュは、ゆっくりとこちらへ歩いて来ると、ぼくの目の前で、立ち止まった。
長くて綺麗な指が、ぼくの頬に触れた。
ルルーシュの顔が霞んで、よく見えない。
「こんなところで泣くな・・・恥ずかしいやつめ」
そう言われて、ぼくは、初めて自分が涙を流していることに気付いた。
「ぼくだって・・・泣きたくて・・・泣いてるわけじゃ・・・っ」
嗚咽が邪魔をして上手く言えなかった言葉を、ルルーシュは、首を横に振ることで否定した。
そして。
「だが、そういうオマエの方が、分かりやすくて好きだ」
「ルルーシュ・・・?」
ぼくは、今ほど、自分の耳を疑ったことはなかった。
ルルーシュが、誰を好き、だって?
ぼくが動けないでいると、ルルーシュは、ぼくの涙を拭い、その相好を崩した。
「いい加減、自分を許してやれ・・・オレの命令を実行するには、あの時のオマエには、ああするより他になかった・・・目の見えない・・・歩くことも出来ないナナリーを助けるには、『敵』を排除するより他になかった・・・違うか?」
ルルーシュは、ぼくに頼んだことを『命令』に置き換えることで、ぼくの『罪』を、自らに背負い込もうとしているように思えた。
それは、優しくも哀しい『慰め』だった。
だけど、ルルーシュが肩代わりしようとしているのは、物を壊したとか、誰かにケガをさせたとか、そんなレベルの問題じゃない。
「でも、ぼくは、そのために父さんを・・・」
人殺し、なんだ。
ルルーシュは、真っ直ぐにぼくを見つめると、驚くべきことを言った。
「オレが、オマエの立場でも、同じことをした」
「・・・ルルーシュ?」
ぼくが、信じられない、という気持ちで、ルルーシュを見ると、彼の口元から、笑みが消える。
「ナナリーを守るためなら、悪魔にだって魂を売るさ・・・それが、オレのやり方だ。そして、オレは、信頼出来ないヤツに、ナナリーを触らせたりはしない」
見つめ返した瞳には、一遍の曇りもなく、逆にそれが、ぼくの背筋を寒くした。
それが、ルルーシュの『覚悟』のような気がして、ぼくは、彼の前で、膝を折るしかなかった。
そして、ルルーシュが、ぼくに『誓いの言葉』を求める。
「オレのために、力を使うか?」
ぼくは、ひざまずいたまま、こう言った。
「イエス、ユア・ハイネス」
―――殿下の、仰せのままに。
Seen.16へ